名探偵シャーロック・ホームズの物語には、手紙がよく登場します。まだSNSもなかった19世紀当時の人々は、現代に生きる私たちよりもたくさん手紙を書いていたのでしょう。
私が最も怖いと思ったのは、短編「オレンジの種五つ」に登場する手紙です。
物語は、ジョンという青年がホームズを訪ねるところから始まります。ジョンには大好きな伯父がいました。若いころアメリカで暮らし、その後イギリスに戻ってきた伯父は、ジョンをかわいがってくれました。
その伯父のもとへ、1通の奇妙な手紙が届きます。封筒の中にはオレンジの種が五つ。そして紙には「KKK」という3文字だけが書かれていました。
伯父はその手紙を見ると、急に震え始めました。そして手紙を燃やしてしまいます。なぜそんなにおびえるのか。家族には理由を話しません。そしてその後、不思議な死をとげてしまいます。
恐ろしいことに、同じ手紙が今度はジョンの父親にも届きます。やはりオレンジの種が五つ入っていました。父親もまもなく命を落とします。
そしてついに、ジョン自身にも同じ手紙が届きます。3人続けて狙われる理由は何か。怖くなったジョンは、ホームズに助けを求めたのでした。
ホームズは調査を進めるうちに、KKKの意味を突き止めます。それはアメリカ南部に実在する秘密結社クー・クラックス・クランの頭文字でした。
アメリカではかつて、黒人が奴隷だった時代がありました。この制度を続けたい南部の州と、奴隷に反対する北部の州が争ったのが南北戦争(1861~65年)です。
戦争を経て、奴隷制度は廃止されました。しかし戦後になっても差別は続き、黒人の権利を認めたくない人々が秘密結社KKKを結成します。白い頭巾をかぶる姿や、十字架を燃やす儀式で知られています。
KKK、そしてオレンジの種は、事件とどう関係するのでしょうか。ホームズの謎解きが始まります。
ところで、KKKは現在のアメリカにも存在します。統一された組織ではなく、今は複数の団体がKKKを名乗り、それぞれ独立して活動しているようです。
アメリカに住む毎日新聞の特派員が今年の夏、KKKの団体の一つ「KKK騎士団」に取材したところ、「今は黒人を憎んではいません」との答えが返ってきました。その一方で、やはり白人と黒人は「一緒に暮らすより、人種ごとに分かれて暮らすことが必要」とも話しました。
19世紀のホームズの時代から、21世紀の今も活動を続けるKKK。時を経ても、人間はなかなか「差別」の考えを捨てられないようです。【篠田航一】=随時掲載します
毎日新聞のベルリン、カイロ、ロンドン支局長などを経て外信部長。探偵小説が好きで、2025年には「コナン・ドイル伝 ホームズよりも事件を呼ぶ男」(講談社現代新書)を出版。
Indonesian
English
Hindi
Thai
Vietnamese
Burmese
Spanish
Portuguese
Arabic
Russian
Chinese