政府は来年4月から2年間に限り、飲みものや食べものにかかる消費税の税率について、いまの8%から1%に引き下げることを決めました。消費税の減税は1989年の導入以来、初めてとなります。その歴史を振り返りながら、減税の行方を考えます。【馬渕晶子、木村健二】
消費税は、モノを買ったりサービスを受けたりした時に支払う税金です。受け取った店や会社が国や自治体に納めるので、負担する人と納める人がちがう「間接税」の一つです。市民が広く負担し、税収が景気や人口の変化に左右されにくいなどの特徴があります。社会保障4経費(年金、介護、医療、子ども・子育て支援)に充てられています。
一方、所得(仕事などで得られるお金)にかけられる所得税や、会社などのもうけにかけられる法人税は、負担する人と納める人が同じなので「直接税」といいます。
日本の消費税は、1989年4月1日から税率3%で始まりました。税率は少しずつ引き上げられ、2019年10月から10%になりました。飲食料品や定期購読の新聞については8%のままにすえ置く「軽減税率」が導入されました。
1997年から税収を地方にも回すようになり、いまの税率10%の配分は国が7・8%、地方が2・2%。2026年度予算の消費税収は国の分が26兆7000億円、地方の分が7兆3556億円と見込まれています。
消費税には「逆進性」という問題点があります。所得が多くても少なくても、一律の税率で税金をかけると、所得が低い人ほど所得に占める税金の負担額の割合が高くなってしまいます。軽減税率には逆進性をゆるめるねらいがあります。
政治ジャーナリストの後藤謙次さんは「10代に語る平成史」(岩波ジュニア新書)で、「平成政治の主役は消費税」と位置づけています。消費税が導入された1989年は平成元年でした。法案を成立させた竹下登政権は、政治家や役人がわいろを贈られた「リクルート事件」などの影響もあって退陣しました。2019(平成31)年4月30日まで続いた平成の時代。政界では、こんな言葉が語られるようになりました。「消費税に手をつけると政権がもたなくなる」
橋本龍太郎政権は1997年4月に税率を5%に引き上げましたが、翌98年の参議院議員選挙で敗れて退陣しました。旧民主党の野田佳彦政権は、税率を8%、10%と段階的に引き上げることについて、自民党、公明党との3党間で合意。2012年8月に関連法を成立させましたが、この年12月の衆議院議員選挙で大敗し、政権を失いました。
一方、第2次安倍晋三政権は安定していました。14年4月に税率を8%に引き上げました。14年11月と16年6月の2回にわたって税率10%への引き上げを延期。19年10月に引き上げを実行し、飲食料品などの税率を8%におさえる軽減税率も導入しました。
高市早苗・総理大臣は今年1月、衆議院の解散・総選挙(衆院選)を表明し、飲食料品の消費税率8%を2年間に限ってゼロにする考えを示しました。衆院選に向け、野党の立憲民主党と公明党が結成した「中道改革連合」は、税率をずっとゼロにすることを打ち出していました。多くの野党が物価高の対策として消費税の減税や廃止を訴えていて、高市さんが対抗したとみられています。
高市さんが率いる自民党は2月の衆院選で圧勝。選挙の後、政府と主な与野党が参加する「社会保障国民会議」ができました。しかし、減税の期間や方法をめぐって意見がまとまらず、物別れに終わりました。
これを受け、政府は8月、飲食料品の消費税の税率について、来年4月から2年間に限って8%から1%に引き下げることを決めました。税率をゼロにすると、レジのシステム改修に長い時間がかかるため、改修が短くて済む1%を取り入れることにしました。来年6月以降、残る1%分の財源を使い、所得に応じてお金を支給することで消費税率を「実質ゼロ」にします。
消費税の減税で人々がたくさん買い物をすれば、お店の売り上げが上がり、企業も商品をつくる量を増やします。その結果、働く人がもらう給与も上がります。人々がお金を使う、つまり消費することが経済の成長を支えるのです。日本の消費支出額のピークは2014年1~3月期でした。翌4月に消費税率の8%への引き上げをひかえ、増税前に急いで買い物をする「駆け込み需要」がありました。今回はそれとは逆に減税で消費額が増えるかが注目されます。
国民の平均給与は478万円(24年)と、この30年間ほぼ横ばいです。しかし、給与所得に占める税金と社会保険料を負担する割合「国民負担率」は26年度に45・7%と見込まれ、30年前(1996年度)の34・6%から10ポイント以上も上がっています。近年の物価高で家計が苦しさを増す中、負担と経済のあり方をよく考えた政策が問われています。
飲食料品の消費税率を8%から1%に引き下げると、年間で約5兆円の税収が減ります。政府は具体的な財源を示していません。その分の政府の予算が減れば、これまで消費税の税収が充てられてきた社会保障のサービスの質が下がってしまうおそれがあります。
高市さんは「責任ある積極財政」を掲げ、経済成長につなげる政策などに使うお金を増やしていく考えです。国の財布に入るお金が減って財政が悪化すると、日本という国が信用を失って円の値打ちが下がる「円安」がさらに進み、輸入品が値上がりします。減税の幅を物価高が上回れば、減税の効果が打ち消される可能性もあります。
高市さんは、減税の期間について「2年後に私が責任を持って確実にもどす」と述べています。ただ、消費税の導入や税率アップを掲げた政党は、過去の選挙で有権者のきびしい反応を受けてきた歴史があります。元にもどすのは一筋縄ではいかなそうです。
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