江戸時代の都市の人々の食生活は現代よりミネラルが豊富だった――。17世紀中ごろ~19世紀末に印刷された和本の表紙にすき込まれた髪の毛を調査した龍谷大学などの研究グループが、そんな分析結果を発表しました。現代に比べ完全にぬかが取り除かれていない米を食べたり、海の魚を食べたりしていたことが理由とみられます。【太田裕之】
グループは龍谷大学大宮図書館(京都市下京区)などが所蔵する約7万冊の和本を調査し、印刷地と時期を特定できる髪の毛を約400部から集めました。ほとんどは現在の京都、大阪、東京の3都市で印刷されていました。この髪の毛について元素を調べたり、食べ物などを推定したりしました。
その結果、3都市を通じて塩素、カリウム、カルシウム、マンガン、鉄、銅、鉛などの濃度が現代よりも高くなりました。米を中心とする作物と海の魚に頼っていたことが示されたのです。また、ぬかを取り除く精米の広がりを反映するように、カリウムやケイ素は江戸時代250年の間に減っていました。
一方、亜鉛の濃度は現代より低くなりました。現代の日本人の摂取源となっている豚肉や牛肉が、明治以前は食べられなかったこととぴったり合っているそうです。
また、とり過ぎると問題になる鉛や塩素の濃度が、現代よりはるかに高くなりました。背景には、おしろいに鉛がふくまれていたこと、塩によって食料を保存していたことがあると考えられます。
研究グループの主なメンバーは、丸山敦・龍谷大学先端理工学部教授、入口敦志・国文学研究資料館教授・副館長、及川将一・量子科学技術研究開発機構(QST)量子医科学研究所物理工学部静電加速器運転室長です。分析結果は、イギリスの科学誌サイエンティフィック・リポーツに論文が掲載されました。
今回の研究は、過去に魚類やサンショウウオの食生活を調べたことが出発点でした。丸山さんたちは、自らの髪の毛を測定して人間の食生活を読み取ることも試してきたそうです。近世文学・書誌学が専門の入口さんが、古い和本の表紙の再生厚紙から髪の毛が見つかることをアドバイス。及川さんが約6年かけて髪の毛の試料の分析を担当しました。
グループは「古い和本はバイオアーカイブを内蔵するタイムカプセルだった。異なる専門分野、畑ちがいの研究者が好奇心で集まったことも、この研究の面白さにつながった」としています。
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