サッカー・ワールドカップ(W杯)の北・中央アメリカ3か国大会が11日から始まります。W杯は、世界中で人気のあるサッカーで世界一を決める4年に1度の祭典です。「ワールドカップの世界史」の著者で国際ジャーナリストの千田善さん(67)に話を聞きながら、その歩みと今大会で注目の話題を案内します。【高橋秀明】
日本の初出場は1998年・フランス大会です。一つ前の94年・アメリカ大会を目指したアジア最終予選では、勝てば初出場が決まるイラク戦で終了間際にゴールを許し、引き分けで出場を逃しました。カタールの首都ドーハで行われた試合だったため、「ドーハの悲劇」と呼ばれています。日本の森保一監督(57)は、当時の代表メンバーでした。
初出場後はW杯に出場し続けています。2006年・ドイツ大会後には、世界的な名将だった故イビチャ・オシムさんが日本代表監督に就任。千田さんが通訳を務めました。オシムさんの掲げた「考えて走るサッカー」は、同じ海外クラブに所属していた元J1広島監督のペトロビッチさんを通じて、森保監督にも影響を与えました。千田さんは「オシムさんのサッカーは今の日本代表にも引き継がれている」と見ています。
日本の過去最高成績はベスト16。10年・南アフリカ大会と22年・カタール大会はともに決勝トーナメント1回戦でPK戦の末に敗退。18年・ロシア大会は決勝トーナメント1回戦で後半に2点を先行しながら、ロスタイムに逆転負け。初のベスト8入りを逃しました。
優勝経験のある8チームのうち、ヨーロッパのドイツ、フランス、イングランド、スペインと南アメリカのブラジル、アルゼンチン、ウルグアイの7チームが出場を決めました。しかし、イタリアは3大会連続で出場を逃しました。
初出場は中央アジアのウズベキスタン、中東のヨルダン、アフリカ北西沖の島国であるカボベルデ、カリブ海にある島でオランダ自治領のキュラソーの4チームです。
イギリスからはイングランドとスコットランドの2チームが出場します。サッカー発祥の地であるイギリスは「特別あつかい」されていて、ウェールズと北アイルランドをふくめた4協会それぞれが参加する資格を持っています。
今大会は前回より16チーム多い過去最多の48チームが出場しますが、千田さんは「国際サッカー連盟(FIFA)が出場チームを増やしたのは、インドと中国をW杯に参加させたいからなんです」と説明します。両チームとも今回は出場できませんでしたが、将来的に人口世界1位と2位の国が参加すれば、今まで以上にサッカーが世界に普及し、発展していくと考えているわけです。
今大会にはアメリカが攻撃した中東のイランも出場切符を手にしています。アメリカとイランは2022年・カタール大会の1次リーグでも対戦し、1―0でアメリカが勝っています。政治的対立は長年続いていますが、この試合ではフェアな戦いを見せ、健闘をたたえ合いました。W杯はスポーツの枠を超えた影響力があります。FIFAのインファンティノ会長は「サッカーは世界を一つにする」と訴えています。
アメリカのトランプ大統領の関税、移民政策などにより、W杯をともに開催するアメリカとカナダ、メキシコの関係も微妙です。もっとも千田さんは「W杯をきっかけに関係が改善した例もあります」と言います。史上初の2か国共催となった2002年・日韓大会です。W杯共催をきっかけに文化やスポーツの交流が始まり、日本ではいわゆる「韓流ブーム」が起こりました。今回も「W杯をきっかけにいい方向に向かってほしい」と願っています。
歴代のスーパースターとしては、ペレ(ブラジル)、マラドーナ、メッシ(ともにアルゼンチン)といった選手が有名ですが、近代サッカーに大きな影響を与えた選手として千田さんが挙げるのが、クライフ(オランダ)とベッケンバウアー(西ドイツ)の2人です。
「それまでは個人技が中心のサッカーでしたが、1974年・西ドイツ大会あたりから、今までになかった組織的な戦術が見られるようになりました。その中心が、攻撃や守備の専門分野の壁を取っぱらい、(全員攻撃、全員守備の)『トータルフットボール』を率いたクライフと、スイーパーと呼ばれた守備専門のポジションを攻撃も担う『リベロ』に進化させたベッケンバウアーでした」
いつの時代も、偉大な選手たちの華麗なプレーは感動を与えてくれます。今大会では、得点力が高いキリアン・エムバペ選手(フランス)や、切れ味鋭いドリブルを見せる18歳のラミン・ヤマル選手(スペイン)らが、どんな活躍を見せるかが、注目されています。
これまで優勝したのは、ヨーロッパと南アメリカの国だけでした。千田さんは「今回も優勝経験のあるチームが中心」と予想していますが、2018年・ロシア大会で準優勝、22年・カタール大会で4強入りしたクロアチアにも注目しています。クロアチアは、旧ユーゴスラビアから分離独立した国です。旧ユーゴスラビアは解体されてしまいましたが、その中から若手の育成に定評があるクロアチアが力をつけてきました。
アジア勢初の優勝を目指す日本は、海外クラブ所属選手が過去最多の23人。25年10月には親善試合でブラジルから歴史的な初勝利を挙げ、今年3月にはアウェーでイングランドを破りました。「史上最強」との評価もありますが、千田さんは「過去の日本代表は肝心なところで疲労の蓄積が出た」と振り返ります。決勝トーナメントに進出した4度はいずれも初戦敗退。いかに余力を残して1次リーグを勝ち抜くかが、カギとなりそうです。
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