(CNN) 2021年に英国女子フィールドホッケー代表の新しいユニホームに身を包んだ五輪選手テス・ハワード氏は、予想もしていなかった感情を抱いた。恥ずかしさだ。
コンプレッション素材のタンクトップと、ぴったりした短いスコートは、パフォーマンスウエアとして設計されていた。だが実際には、タンクトップはきつ過ぎて胸元が大きく開き、上下ともに身体の動きや呼吸を物理的に妨げた。
「タンクトップを着ると、命を吸い取られるようだった」とハワード氏は語り、スコートのせいで逆に走りにくくなっていたと振り返った。「試合前には、みんなでロッカールームでいすの背に引っかけて伸ばし、フィット感を変えられないか試していた」
ユニホームに気まずさや不快感を覚えるのは、トップレベルの女子選手だけではない。英国では16歳までに女子のほぼ3分の2がスポーツへの関心を失う。その主な理由には評価されることへの恐怖や自信の欠如が挙げられる。ユニホームもその一因だ。米国では、女子がスポーツをやめる割合は男子のおよそ倍となっている。
ハワード氏とチームは約1年にわたって企業とかけあい、ユニホームのデザイン変更にこぎつけた。締め付けの強いタンクトップはよりゆとりのあるものに替わった。
パリ五輪では、スコートに加えてショートパンツも選べるようにしてもらい、ハワード氏はショートパンツを着用して得点した初の女子五輪フィールドホッケー選手となった。この出来事は注目を集め、アイルランドのカモギー選手が試合をボイコットした末にショートパンツ着用の権利を勝ち取ったり、フランス体操連盟が体操選手にレオタードの上にショートパンツ着用を認めたりするなど、変化が続いた。
ハワード氏の経験は同氏個人のものではない。10代の体操選手から大学の競泳選手、プロのサッカー選手に至るまで、女性は長年、パフォーマンスや健康に悪影響が及んだとしても、ユニホームは「実物以上によく見せる」ものであるべきだと言われてきた。これは遠回しに露出を意味している。
オーストラリアの元バスケットボール選手、エリン・フィリップス氏は、所属チームの「肌に密着し、想像の余地を残さないボディースーツ型ユニホーム」が、パフォーマンスを支えるどころか選手を性的対象化したと非難した。
「そのユニホームを着ることでひどく自意識過剰になった」とフィリップス氏はインタビューで語った。競技人生の頂点にあった時期でさえ、見た目に対する強いプレッシャーから、ダイエット薬を服用し始め、十分に食べなかったという。
プロの成人女子選手がそう感じるなら、より脆弱(ぜいじゃく)な10代の女子も同じように感じるのではないか。心理学者のジェーン・オグデン氏はそれを確かめるため、思春期に多くの女子がスポーツをやめる理由を探る第一歩として、元選手20人に聞き取りを行った。
6月に発表された同氏の「あなたは基本的に裸だ」と題する研究では、共通するテーマが明らかになった。小さ過ぎ、密着しすぎるユニホームが、体の見え方への不安を招いていたのだ(ほかの要因もあったが、問題のあるユニホームは大きな要因だった)。
「バレエ、体操、水泳のようなスポーツでは、思春期を迎えると、ぴったりしたレオタードや衣装が女子に強い露出感を与える。体毛や月経、体形の変化、そのすべてが突然さらされていると感じられる」(オグデン氏)
こうした露出は、年長のプロ選手と同様に、アスリートはどう見えるべきかという非現実的な理想と衝突する。
「筋肉質で健康的である一方、きゃしゃで自制的でなければならないという感覚がある」とオグデン氏は語った。「ユニホームは、女性が競技をしながらも従来通りセクシーに見えるべきだった時代にとどまっていて、パフォーマンスではなく、美人コンテストのためにデザインされたかのようだ」
例えば体操選手のザラ氏は、レオタードを着用した時の気持ちをオグデン氏の調査チームにこう語った。「レオタードは曲線やおうとつなど、あらゆる細部を見せつける。体操をしているときの不自然な姿勢の中で、あれほど密着したものを着るのは難しい」
こうしたプレッシャーが、スポーツから完全に離れる女子を生んでいる。
合わないユニホームの影響は心理的なものにとどまらず、生理的にも現実の影響を及ぼす。
常に「細く」「軽く」見えなければならないというプレッシャーにさらされると、選手は十分なエネルギーを取らなくなり、パフォーマンスが損なわれることが多い。
1000人超のマラソン選手(女性546人、男性484人)を対象として24年に行われた研究がそれを示している。この研究は「軽いほど速い」という神話を否定した。ボストン・マラソンに参加した、エネルギー不足に陥っている選手、すなわち利用可能エネルギー不足(LEA)の選手は遅く、重大な医療問題が発生するリスクが約3倍高かった。成績を予測するための重要な変数は体重ではなく、エネルギー補給だった。
この研究を主導した、ボストン・マラソンの共同医療責任者クリスティン・ホイットニー氏らによると、女子マラソン選手の40%超がLEAであったのに対し、男子は20%未満だった。
継続的なLEAは、スポーツによる相対的なエネルギー不足(RED-S)につながる可能性がある。これは「運動に費やすエネルギー量に比して、摂取カロリーが不足している」状態だと、ノースカロライナ大学ギリングス・グローバル公衆衛生大学院の運動内分泌学名誉教授であるアンソニー・ハックニー氏は説明する。
この状態は男女ともにホルモン減少を引き起こすが、女性ではエストロゲンの減少により、月経周期の乱れ、免疫機能の低下、骨の脆弱(ぜいじゃく)化が生じ、当然パフォーマンスにも悪影響が出る。
長距離選手のベイリー・コワルチェク氏は、それを身をもって知った。体重を落とせば速く走れるとコーチに言われ、食事を制限した結果、体が壊れた。月経が止まり、疲労骨折を起こし、約束とは裏腹にパフォーマンスは急落した。
テス・ハワード氏をはじめ、体形意識によって競技能力が損なわれることに嫌気がさした女性選手たちは、変革のための取り組みを続けている。
ハワード氏は最近、英国でインクルーシブ・スポーツウェアを創設し、アシックスと提携して「アンドロップド・キット」を発表。これは体育の授業向けに見直されたユニホームで、汗を目立たせない生地や月経に対応した素材が採用され、柔軟なフィット感を備えている。女子はショートパンツやレギンス、ゆったりしたトップスを選べるという自由を得られる。
重視すべきは、選手の意識を競技に集中させることであって、用具ではないとハワード氏は指摘した。
「女子に着るものを指示する必要はない」とハワード氏は語る。「必要なのはプレーに集中するための選択肢だけだ。競技中にどう見えるかを気にするためではない」
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