
福島県の猪苗代湖が、国際的に重要な湿地を保全するラムサール条約に登録されました。日本大学名誉教授の中村玄正さん(83)は約20年にわたって、この猪苗代湖の水質をはじめとした環境について研究をしてきました。猪苗代湖の環境保全のこれまでとこれからについて、中村さんに語ってもらいました。【聞き手・松本光樹】
●実にさまざまな姿
――7月に猪苗代湖がラムサール条約に登録されました。どのように評価されていますか。
◆ラムサール条約への登録は、自然の豊かさが猪苗代湖にとって一番大事であると認められたと考えています。登録をきっかけに、多くの人にこの自然の豊かさを知っていただけるとうれしいです。そのためには、ぜひ現地に来ていただきたいと思っています。
――猪苗代湖の魅力はどんなところにありますか。
◆いろいろあり、人によっても違うと思いますが、一つ言えるのは、実にさまざまな姿を見せてくれるというところです。子どもたちがスイカ割りを楽しめる砂浜もあれば、湖畔に砂よりも大きな石が堆積しているところもある。また、浅瀬に水草が生い茂り、水鳥や魚、昆虫など生態系に恵まれた場所もあります。小さな砂浜の砂粒一つでも、場所によって大きさや形に違いがあり、そのバラエティーの豊かさは興味深く、魅力的です。
●続く水質の悪化
――一方で水質の悪化も課題となっています。現状を教えてください。
◆猪苗代湖はかつて酸性の湖でした。しかし、平成に入ってから14年あまりで急激に酸性度(pH)が変化し、現在は6・9と完全に中性の湖となっています(pH7が中性)。それを追うように、湖の汚れ具合を示す化学的酸素要求量(COD)という指標が上がってきています。2002~05年度には環境省のランキングで日本一だった水質は、実は05年ごろから悪化の一途をたどっているのが現状です。
――原因は何でしょうか。
◆pHが上がった原因はまだはっきりはしていません。CODについては、猪苗代湖のCODが上がり続けているのに対し、流入している河川のCODはむしろ下がってきていることが私たちの研究で分かりました。つまり、猪苗代湖の内部の変化がCOD上昇の原因と考えています。より具体的にいえば、夏場に湖の北側に繁殖する水生植物が枯れ、湖内部で分解しきれずに腐るなどして水質の悪化につながっていると考えられます。
●水草の管理が必要に
――どんな対策が必要なのでしょうか。
◆一定の管理が必要になります。水の中に生える「ヒシ」に関しては県も毎年刈り取り活動などをしているところです。一方で北岸では、湖畔に生える「ヨシ」の繁茂も進んでいます。南岸では水深が深くヨシはあまり生えていませんが、岸には北岸から流れてきたヨシが砂浜にたまっています。こうしたヨシに関しても、例えば「岸から5~10メートル以内は生やさないようにする」などの管理が必要になります。そのあたりを行政にいかに理解してもらえるか。我々研究者らが継続的に発信していく責務があると考えています。
――今後はどのように環境保全活動に関わりますか。
◆まだやりたいことが多くあります。一つが猪苗代湖の中性化の原因の解明です。安達太良山の火山活動の低下が原因ではないかといわれていますが、私は融雪剤が原因になり得るのではないかと思っています。中性化が始まった昭和から平成にかけての時期には、高速道路などの整備が進みました。そして水をアルカリ化させる性質のある塩化アンモニウムなどが含まれた融雪剤も多くまかれるようになりました。これが湖に流入したのではないかという仮説も検証したいと考えています。
次代を担う子どもたちが外で自然と遊ぶきっかけになる、学びの機会を与えてくれる猪苗代湖を次世代につなげるため、有志の方々とともに私にできることを続けていきたいと思います。