
カメラマンが魅せられた風景 新潟県糸魚川市の山間にある集落で、およそ500年前から伝わる伝統芸能『おててこ舞』。伝統を継承する人たちの姿に、カメラマンが魅せられました。 糸魚川市根知地区の山寺集落に伝わる伝統芸能『根知山寺(ねちやまでら)の延年』で披露されるなかで代表的な踊りが『おててこ舞』。
『延年』とは奈良や京都の寺院で法会の後に行われた余興の芸能のことで、『根知山寺の延年』は新潟県内に伝わる唯一の延年芸能。1980年には国の重要無形民俗文化財にも指定されています。 毎年、8月31日の宵宮と9月1日の大祭に日吉神社へ舞楽が奉納され、宵宮の舞台では祭りの始まりに邪気をはらう「あくまはらい」や、宵宮唯一の稚児舞である「てんとの舞」など9曲が奉納されます。宵宮のフィナーレとなる「鯛釣りの舞」は、恵比寿様が釣り竿と扇を持って舞い最後に鯛を釣り上げるというストーリ-の舞で、コミカルなアドリブが入ることもあります。 およそ500年前から続いてきた年に一度の晴れ舞台に向けて、踊り手たちや集落の人たちが準備を始めたのは7月でした。 【山寺区 猪又幸仁区長】
「宵宮・本宮ということで開催という運びとなりました。皆さま何卒、最後までご協力よろしくお願いいたします」 この日は“おててこ会館”での顔合わせ。
『根知山寺の延年』は山寺集落が伝承してきましたが、今では根知地区の他の集落からも踊りの担い手を募っています。
複雑な振付を練習している8人がいました。
山寺延年を代表する踊り『おててこ舞』を担うメンバーです。
小学6年生以下の「稚児」が4人、中学生以上の「大将」が4人選ばれます。
稚児になった小学3年生の女の子も『おててこ舞』は初挑戦ということで、経験者に指導してもらいながら、一生懸命練習に励みました。 「こうやったら、こうやって…、礼」
「そうそう ―」 “鏡の舞”の指導を受けていた稚児のなかに、最年少の踊り手がいました。
今年が初めての舞台だという4歳の男の子を、母親が見守ります。 「頑張れそう?」
「うん」
本番のお披露目が楽しみです。
8月下旬。
本番と同じ日吉神社の舞台で踊りの練習が行われていた裏では、小道具を作ったり補修したりする『はりたや』と呼ばれる作業が行われていました。 「本番の舞子の、道具の傷んだところを直したり補修したり…」 着物も、お面も、小道具も、代々受け継がれてきた貴重なものです。 「踊り手が舞台で映えるように ―」 そんな温かい気持ちが脈々と込められてきました。 そして迎えた9月1日。
いよいよ舞楽の奉納です。 多くの人に見守られながら華やかな衣装を来た稚児や神輿が神社に向かいました。 【おててこ舞の稚児】
「手とかリズムが難しかったです」
「これからも踊りは続けたいです」 【鏡の舞の稚児とその母】
「今までは見ているだけだったんですが、実際参加させていただいて、たくさんの人でお祭りが作り上げられていくということ知って、“力をあわせて”ということを実感しました」
「楽しかったです」 『根知山寺の延年』には、芸能に触れることで心を和ませ、長寿を願うという祈りが込められています。 【地元の人】
「近所なので夜練習している音が聞こえるんですよ」
「みんな一生懸命何日もかけて、素晴らしいお祭りですね」 【山寺区 猪又幸仁区長】
「おててこ舞そのものは、やはり“誇り”だと思います」
「太鼓が鳴って笛を吹かれて、寝ていられないという方も…」
「そういう人たちのことを考えればやらざるを得ないのかな」
「大成功のもとに終わったということは、何よりもない喜びかなと」 笑顔と踊りの輪は、これからも世代を超えて受け継がれます。