
「バッテリー」「The MANZAI」など10代の少年少女を主人公にした作品で知られる作家のあさのあつこさん。14年ぶりとなる、SF小説「NO.6」シリーズの最新作「再会」が発売されました。あさのさんに作品ができるまでの道のりや、本との向き合い方を聞きました。【篠口純子】
--2003年に「NO.6」シリーズが始まりました。
あさのさん 01年に起きた「9・11」、アメリカ同時多発テロがきっかけとなりました。9・11の後、善か悪か、敵か味方か、世界を二分する動きがありました。自分たちではない側を理解したいと思い、そのためには書かないといけないと思いました。けれど、国家にしいたげられたことも、敵の側にまわされたこともありません。分からないまま書き始め、呪文のように「ネズミ、ぼくは知りたいんだ」と唱える紫苑と自分が重なりました。
でも、書き始めると、紫苑を知っているつもりなのに分からないことも多い。二人を知っていくことが、世界を知っていくことにつながる物語を書きたいと思いました。
--14年ぶりに紫苑とネズミが再会を果たしました。
あさのさん 紫苑がどういう少年か、ネズミがどういう存在なのか、シリーズ全10巻を書いてつかめるほど、たやすくはありませんでした。結局、世界とは何か、人間とは何か、分からないまま。書き終えてからずっと引きずっていましたが、ネズミの声が聞こえました。「余計なおせっかいはやめてもらおうか」と。
シーンがちょっと見えたり、二人の会話が聞こえたり、紫苑の独白が聞こえたり、イヌカシの場面が見えたりして、それらをノートに書き留めました。もしかしたら書けるかもしれないと思った時に、イスラエルによるガザ侵攻が起きました。子どもに向かって大人がミサイルを落とす現実をつきつけられ、今こそNO.6を書くべきだと思いました。それが(続編となる)「再会」の始まりです。
--ネズミは本や演劇が好きですね。
あさのさん 文化が根付いている人は、そう簡単に流されません。思考するからです。音楽、絵、舞台もそうですが、本は開けば読めます。人間とは、生きるとは、憎むとは、愛するとは何かを考える刺激になるし、栄養にもなります。感情を揺さぶられることが人間を人間たらしめる根幹(大もと)だと思います。
--読書感想文や読者の感想を目にすることもあると思います。
あさのさん こちらがまったく意図しない受け取り方や読み方をしてくれます。読み方に正解はありません。読書感想文を書きたいと思える本に出会えることが正解だと思います。だれかにこの本のことを伝えたい、感想文を書いてもいいと思える本に出会えたらいいです。でも、町に本屋がない子もいるし、司書教諭がいる学校も少ない。課題図書なら学校や図書館でそろえるので、子どもたちが読むチャンスだと思います。それを足がかりとして、本はこんなにおもしろいんだと思ってほしいです。
☆NO.6 再会#1
(toi8・絵/講談社/2019円)
世間知らずな超エリートの紫苑とテロリストのネズミが出会い、偽りの理想都市「NO.6」を崩壊させました。「再会を必ず」と告げて、ネズミが去ってから2年後。「NO.6」再建委員長として奮闘する紫苑は、誰かに命をねらわれました。そんな時、ネズミの気配を感じて……。
岡山県生まれ。青山学院大学卒業。大学在学中から児童文学を書き始め、小学校講師を経て、1991年に「ほたる館物語」で作家デビュー。「バッテリー」で野間児童文芸賞受賞。おもな作品に、時代小説「弥勒の月」などがあります。