
車の運転中に信号機がない横断歩道に差しかかると、歩行者が渡ろうとしていました。ドライバーが取るべき行動は何でしょう。
正解は一時停止。でも、実際に止まる車は全国平均で約50%にとどまり、7都道県では40%にも満たない結果になったという調査があります。こうした状況を受け、簡単な習慣を対策としてPRする地域も出始めました。今からできるアクションとは――。
日本自動車連盟(JAF)は2016年から、全国で信号機のない横断歩道を歩行者が横断しようとしている時に車が一時停止している割合を調査しています。具体的には、47都道府県ごとに信号機なしの横断歩道を2か所ずつ抽出。二つの横断歩道を通過した車100台のうち、一時停止しなかった車を数えました。
24年調査では、全国平均で53%が停止しているという結果で、調査を始めてから初めて半数を超えました。改善傾向にあるように見えますが、道路交通法が車両に対して一時停止をして横断者の通行を妨げないよう義務付け、罰則を設けていることを踏まえると、満足のいく結果ではありません。ルール違反が横行しているのです。
40%未満を記録した7都道県のうち、ワーストは富山県の31・6%。2位以下は、北海道34・1%▽福井県34・7%▽茨城県35・2%▽和歌山県36・2%▽東京都38・7%▽鹿児島県39・6%――でした。
この状況をいかに打ち破ればいいのでしょうか。24年に交通事故で36人の歩行者が死亡した北海道では、歩行者の行動でドライバーにルールを守る意識を思い起こさせ、事故を防ごうとする取り組みに力を入れています。
「右見て、左見て、もう一回右見て」。下校時間を迎えた歌志内市の小学校前で1日、赤歌署員の声が響きました。児童が手を挙げて元気に横断歩道を渡っている姿を見られました。
横断歩道の前で手を挙げ、走行中の車に横断したい意思を伝えます。停車を確認したら手を挙げたまま横断し、視線を合わせるアイコンタクトや一礼でドライバーに感謝の意を示していました。
一見すると見慣れた光景ですが、一連の行動で歩行者から積極的に一時停止をドライバーに促し、運転手と心を通わせ、安全に横断できる環境を整える動作です。北海道警察は「ハンドサインでストップ運動」と銘打ち、24年7月から北海道民に交通安全を呼びかけています。
この日は歌志内市と赤平市を管轄する赤歌署が、小学生の下校時に両市で啓発活動を実施。署員は児童に車道の確認を促したり、車の一時停止を確認して一緒に横断したりしました。
ドライバーではなく、歩行者が行動を起こさなければいけないのは、運転手がなかなか一時停止しないことの裏返しでもあります。なぜなのでしょう。
鍵は北海道の人口密度にあります。20年の国勢調査によると、北海道の人口密度は、1平方キロメートル当たり約67人で、全国で最も低いです。道内の市町村別で見ると、1桁の自治体も少なくありません。
赤歌署の担当者は、人口密度が低い地方が多い北海道の特徴を挙げながら、「郊外に歩行者はほとんどいません。ドライバーは『まさかいないだろう』と先入観を持ちやすくなるのでは」とおしはかります。
一方で、横断歩道前で一時停止しない課題は札幌市内など人口密度が高く、交通量も多い都市部にも共通します。この担当者は「ハンドサインは、心がけ一つでできます。簡単なので普及しやすいと考えています」と話しています。【和田幸栞、谷口拓未】