【11月1日 AFP】サルに非常に長時間、適当にキーボードを打たせておけば、いつかはシェイクスピア(Shakespeare)の作品の文章を書き上げる──これは無限の時間があれば、理論的には可能ながら極めて起こりにくいことが、確率的に起こり得るとする思考実験で、「無限のサル定理(Infinite Monkey Theorem)」と呼ばれる。
だが、オーストラリアの2人の数学者はこの定理に疑義を呈し、たとえ世界中の全チンパンジーが宇宙の終わりまでキーボードを打ち続けたとしても、シェイクスピアの作品を書き上げることは「ほぼ確実にない」と結論付けた。
1世紀以上前から存在している「無限のサル定理」は、一般的にはフランスの数学者エミール・ボレル(Emile Borel)か英国の生物学者トーマス・ハクスリー(Thomas Huxley)が考案したとされることが多いが、正確な起源は不明で、概念はアリストテレス(Aristotle)にまでさかのぼるとする説もある。
2人の数学者は今週、査読付きジャーナル「フランクリン・オープン(Franklin Open)」に発表した研究で、この定理におけるサルに与える時間を、長時間だが有限とした場合に何が起こるかを追究した。
具体的には1匹のサルが30年間、毎秒1回キーを打つとものとして計算を行った。キーボードには英語のアルファベット26文字と一般的な句読点を含む30のキーがあると設定した。
また「熱的死」と呼ばれる宇宙の最終状態は、グーゴル(1の後にゼロが100個続く数)年後に起こると仮定された。
こうした前提に基づく計算の結果、1匹のサルが生涯のうちに「バナナ(banana)」という単語を打ち出す確率はわずか約5%だった。ちなみにシェイクスピアの全作品を合わせると計88万4647語が含まれているが、その中に「バナナ」という単語は一つもない。
数学者2人はさらに、人間に最も近いとされるチンパンジーに着目した。地球上には現在、約20万匹のチンパンジーがいるが、研究ではこの数が永遠に固定していると仮定した。
しかし、そのチンパンジーたちを総動員しても、シェークスピアの文章を書き出すにはほど遠かった。
論文の共著者を務めた豪シドニー工科大学(University of Technology Sydney)のスティーブン・ウッドコック(Stephen Woodcock)氏は英科学誌ニュー・サイエンティスト(New Scientist)に対し、「その確率は100万分の1にも満たない」と語った。
さらに多くのチンパンジーを投入し、もっと速くタイピングさせたとしても、「サルの労働が、些細なもの以外の文書作成に有効な手段となる可能性はない」と論文は明言。
「サルの労働が、人間の努力を代替するような学術や創造性の源になり得るか」という問いに対し、シェークスピア自身が意図せず答えを出していたかもしれないとして作品を引用し、「ハムレット、第3幕第3場87行目より──『ノー』」と締めくくった。(c)AFP